[新・快適生活図鑑] 第33回(2009年02月掲載)

新・快適生活図鑑 第33回
今は亡き建主の心をつなぐリフォーム
―40年前に作り付けられた本箱の中に詰まっていた建主の歴史―

40年前に自分の成功の証としてこの家を建てた建主がなくなって12年、使われずにいた2階西北の6畳の書斎に、この作り付けの本箱はあった。

後に残った奥様も私の友人の息子も、幅2700・奥行450・高さ2400のこの大きな本箱の中にどんな本が入っているのか開けることもなく12年が経過していた。一昨年奥様もなくなり、この家をリフォームして貸すにあたり、この大きな本箱をどうするかで、12年ぶりに陽の目を見ることになった。

私の友人である息子と工務店の社長は、この本箱を壊せば6畳の子供部屋が1つ増えるので借り手が早くつくのではないかと言った。が、私は「素材がラワンとはいえ、今この本箱を作ったらかなりの金額がかかるというだけでなくこの味はなかなか出せない。この本箱を作ったお父さんの思いを残すべきだと思う。また30万以上出して借りる人は重要なポストについている人で、書斎は必要なはず、書斎付の家を売りにすべき」と彼らを説得し、瀬戸際でこの本箱は残ることになった。

その本箱は、本体と上のガラス入りの扉や引き出しはラワンで作られていたが、地袋の6枚の引き違いの扉だけはその大きさのラワン材を調達できなかったのか、当時のちゃちな新建材で作られており、塗装は焼けて一部剥げ、取手の金具もかなり錆びていた。そこで地袋の6枚の引き違いの扉を上のガラス入りの扉とデザインを合わせ、ガラスの代わりに鏡板を入れた框戸にし、塗装は剥離して塗り替え、取手の金具は新しいものに取り替えることにした。(下記の写真参照)

ただし中のものは処分するしかなく、もし気に入った本があれば本好きの私が持って行ってもいいということになり、12年ぶりにその扉を開けることになった。

友人立会いで扉を開けた。驚いたことにその大きな本箱の中には古い書籍など数冊しかなく、友人から聞いていたお父さんが歩いてきた歴史を物語るかのように、仕事に関する新聞や雑誌のスクラップが目いっぱい詰まっていた。

友人の父親は、明治40年三重県の小さな漁村の長男に生まれたが、旧制中学2年のとき、こんな辺鄙な漁村で一生を送るのは嫌だと思い、母親に旅費をもらい父親に内緒で東京に家出してきたそうである。それがわかったとき彼は父親に勘当され、生活費も送ってもらえず、住み込みで新聞配達や納豆売りをして学費を稼ぎ大学まで卒業した。そして電々公社に就職し役員までになり、電々公社がNTTに変わったとき、責任者として電々公社の残務整理をして引退したそうである。

この本箱に目いっぱい詰まっていたスクラップは、そのお父さんが文学書など読まず、自分の仕事にとって必要な資料を見逃さないようにと日々新聞や雑誌に目を通し、それをスクラップにしておいたものだと思われる。「これらのスクラップは、私には不要だけれど、NTTの関係者にはきっと価値のあるものだと思うので資料としてNTTに寄付したらどう」と彼に提案したが、それには整理する時間もかかるし、保管しておく場所もない。もったいなくても捨てるしかないよ」と、彼が言うのでそのスクラップは廃棄された。

ところが数冊しかなかった古い書籍の中に、お父さんの故郷三重県の歴史と民話の本と伊勢神宮博物館の本があり、それは私の母の故郷が三重県なので貰ってきた。

「勘当されていたので、おじいちゃんがなくなる前に1度と、その後何かで2度くらい僕を連れて行ったことがあるが、それ以外故郷のことなど話をすることもなかったのに、こんな本を買って読んでいたんだ」と友人は、近づきがたく怖い思い出しかない父親の心の奥の思いを垣間見たようにしみじみとした口調でつぶやいた。

この大きな作り付けの本箱には、お父さんの歴史や思いをいっぱい詰めてその役割を果たしてきたという風格が感じられる。確かに6畳には多き過ぎる感はあるが、その存在はこの西北の隅の書斎を品格のあるものにしている。この味わいは次に使う人に何かのメッセージを伝えてくれるはずである。

リフォームされた作り付けの本箱を見た友人は、「君の言うとうり残してよかったと思う。僕もこんな書斎がほしいと思うもの。借りる人もそう思ってくれる人であってほしいな。」としみじみと眺めながらそうつぶやいた。


リフォームコックさんのかわら版は今回が最後になりますが、私はこれからもこのコーナーで紹介したように、そこに住んだ人の心がつながるリフォームを続けていきたいと思っております。

児島 敬子プロフィール

[こじま・けいこ] デザイナー・建築家。
1983年にトータル・ライフコーディネートスタジオ「ZAZA」を開設。1988年、ヒューマンスケールで考える住環境設計を加え、インテリア建築デザイン事務所「ZAZA―YOU、CO」を設立。家が「ゆったりと豊かな時を過ごせる心のすみか」となれるスペース作りを目指し活動を続けている。著書に「インテリア製図の描き方」など。

 

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