漆喰壁だけを専門にしている左官屋さんに話を聞く機会がありました。Sさんとしておきましょう。左官業といえば漆喰も扱うが、モルタル、土、珪藻土などいわゆる塗り壁なら何でも扱うのが一般的です。Sさんもすべてこなしていたのですが、ある時期から漆喰だけに絞って、それ以外の仕事をしないことにしたというのです。
それは、漆喰に惚れ込んでしまったからで、漆喰壁が他のどのような材料を使った壁よりも優れているといいます。Sさんはイタリアで修行を積んだことがあります。教会の壁に描かれるフレスコ画の下地は漆喰で、その壁の美しさに見惚れてしまったからです。左官職人として壁を“究めたい”と、当地の親方に頼んで現場で働かせてもらい技術を学んだといいますから、惚れ込みようも並ではありません。
ところで、日本でも漆喰鏝絵の伊豆の長八で知られるとおり、漆喰は伝統技術です。「外に出ているほど日本のことがよく見えるものです。イタリアで修行を重ねているうちに日本の漆喰技術に強く惹かれた」といいます。
Sさんは帰国してから、伝統技術を継承している親方のもとで日本の漆喰技術の腕も磨きました。左官職人としてはプロ中のプロの域に達したといえるでしょう。もちろんそうに違いないのですが、Sさんの指向はそこに留まってはいません。「昔からの伝統技術を守っている職人は、その技術以外のことをしません。守るという点ではそれも大切ですが、自分はもっと技術を発展させたくなった」といいます。
特別な建物の漆喰壁だけでなく、現在の住宅にもっと漆喰壁を普及させたい。そのためには現在の建築技術との整合性を図っていく必要があり技術開発が求められているといいます。
プラスターボードに2〜3㍉厚の漆喰を塗るというのではなく、もっと厚く塗って漆喰の調湿、分解機能を発揮させたい。そのために、壁下地材からの開発に取り組みはじめた。
漆喰壁の注文であれは新築、リフォーム問わず引き受けており、特に新規開発技術のモニターになってくれる施主は大歓迎のようだ。こうしたSさんの姿勢を理解する人も増えてきて、Sさんの漆喰への探求心は深まるばかりである。