[リフォームあたふた記] 第1回

シロアリ騒動

羽アリが飛んだ。壁も目も真っ黒になった。

●5月初旬 晴れ 羽アリ発生!

5月初めの晴れた日、お昼ちょっと前のことである。O氏は浴槽の湯を汲もうと脱衣所の戸を開けた。そう、O氏はマメな人間である。その日も廊下を拭き掃除しようと、手が空いた時を利用して行動に移そうと思っていた。そしてO氏は節約型の人間でもある。だから拭き掃除には風呂の余湯を使っているのである。

 

脱衣所を開けて、O氏は目を疑った。目の前が暗くなった。脱衣所は畳1枚ほどの広さ、正面はガラス戸があり、昼間なので明るいはずなのであるが、暗い、黒い。そんなはずはない、何かの間違いだ、めまいでも起きたのかとおもった。

 

目を思い切り開き、じっと狭い空間を見つめた。腰を少しかがめていたどうか、それはわからない。石川啄木はじっと手を見たが、O氏はじっと壁を見つめた。そして、大声をあげた。ワー……。

 

O氏は騒がしい人間である。そそっかしくもあるし、大げさである。バタンと戸を閉め、「ふ、ふ、ふろに……」と叫びながらダイニングへ駆け込んだ。駆け込むといっても豪邸ではないので、ほんの2歩3歩走っただけのことだが、家族に異常事態発生を知らせた。ところが、家族ときたら、O氏が騒がしく、そそっかしく、大げさな人間であることを見抜いているのでピクンとも動かない。O氏は我が家ではオオカミ少年ならぬオオカミ中年なのである。

 

「どうしたのよ、騒がしいな」

「羽アリが、羽アリが飛んでいる」

「そう、どうせ1匹か2匹でしょ」

「違う、いっぱいいる」

 

何匹いるのかわからないほど脱衣所は黒かった。O氏はいままで羽アリと遭遇したことはないのだが、知識として羽アリを知っていたのだろう、とっさに羽アリを識別し、家族に伝えたのである。見て来いとO氏は言った。

●殺虫剤を撒け!

ワーと息子が叫んだ。さすが親子だ、異常事態になると似ているのである。しかし、O氏より冷静であり、「どうする?」と聞いた。O氏は戸惑った。さて、どうする、どうする。

「殺虫剤!」

「えっ、撒くの?」

「それしかないだろう。撒いてくれ」

「えー、自分でやったら」

「ちょっと大工のところに行ってくるから、やっておいて」

「逃げるのかよ」

 

O氏は逃げたわけではない。この緊急事態、なんとかしなければならないと思ったし、その発端は風呂場にあると推測したのである。O氏は近くの工務店へ向かった。何度か家の手直しをしてもらっている工務店である。

「羽アリがでましてね、ちょっと見てもらいたいのだが」

「おお、そうかね。あとで見にいくから」

棟梁はそう言う。

 

家に戻ると、息子はアースジェットで羽アリを駆除していた。

羽アリの屍骸。かなりいる。まだ、飛んでいるものも2匹ほどいた。それをO氏は叩いた。

「ごくろうさん」とO氏は言った。羽アリがいなくなったことで気が落ち着いた。

だが、羽アリを殺虫剤で駆除したことがよかったのかどうか、正しいことだったのかどうか。後になって悩むO氏であるが、その時は何も考えてはいない。しかし、結果としては生き残った羽アリが卵を産む可能性を減らしたし、近所に迷惑をかけずにすんだようだ。

 

棟梁がやってきて、風呂場を見てくれた。

「ここか、この腐ったところかな」

風呂場に入るドアの下が腐っていた。1枚板を剥がすと、羽アリの屍骸でいっぱいだった。(つづく)*イラストの羽アリはヤマトシロアリ(世界大百科事典:平凡社から)

岡田 憲治プロフィール

[おかだ・けんじ] 住宅ジャーナリスト・NPO法人埼玉住まいの情報ネットワーク代表。
辛口『野次馬住宅時評』を発行。著書に『住宅のお値段・原価の秘密』『住宅業者の良し悪しがピタリわかる本』『住まいたちの半世紀』など。近著『昭和の住まい学』。
野次馬住宅net http://www.tcat.ne.jp/~yajiuma

 

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