床に穴を開けて入れるようにしてほしいと、H調査員がいった。といってもどうする、O氏には床など開ける技能を持ってはいなかったし、杉板の床を切るなんていうことはとてもじゃないができない、大事な床なんだと思った。なんで床に穴を開けなければならないんだと不満に思いつつも、平気な顔をして当然のごとく言うH氏にこう答えていた。
「いま近くの大工さんに聞いてみましょう」
O氏は気が弱いのである。すぐに飛び出し、以前来てもらった近くの工務店に行くと、幸いにもN棟梁がいて、「そうかい、いま行くよ」と言ってくれた。
10数分後にN棟梁がやってきて、H調査員と話し合い。「そうかよ、穴開けてしまうのかよ。それはたいへんだ」と言った。
「ここの台所のところに2つ開けてください」とH調査員。そこは台所ではなく、リビングなんですけれど、と言おうかなとO氏は思ったが、この狭い空間、誰が見てもリビングとは思えなかったので、言うのはやめた。
H調査員からさらに脱衣所にも穴を開けて欲しいと指示されて、N棟梁は電動ノコでギギギギギーと4つポカンと穴を開けた。それをみてO氏の口もポカンと開いた。
H調査員の地底探検が再開された。終了したのは何時ごろだったろうか。昼近くになっていたと思う。埃を払い、汗を拭き、着替えをすると、テレビを貸してもらえないかと言った。ニュースでも見たいのかなと思ったら、そうではなかった。デジカメで撮影した床下を見てもらいたいのだということだった。
「やっぱり浴室のところがやられていますね。ここですね」
「腐っているとこですね」
「それに和室の下に 蟻 ( ぎ ) 道 ( どう ) が走っていました」
「ギドウっていうのは」
「シロアリが通った道のことです」
「ああ……」
「被害は浴室のところだけですね、全体には広がっていません」
そう聞いて、ホッとするO氏であった。
「ところで、このガラがシロアリを喜ばせていますよ」
脱衣所にはコンクリートの破片や木材の端材などが埋め込まれていた。ガラというのはそうした廃材などの屑をいう建築業界の専門用語である。
「このガラがシリアリを呼び込む原因にもなっています」
とH調査員は言う。
ガラの山を見てO氏の顔は信号のように青くなったり赤くなったりした。
あれは17年前のことだった。
O氏の住んでいる地域に下水が通るということで、水洗トイレの勧めが市役所からあった。O氏の家でも水洗にしようということになり、家族会議を始めると、どうせなら1部屋増やそう、リビングも広くしようという話になった。
リフォームでこういう話はよくあること。どんどん夢が広がるのだ。リフォームの会社にとってはこんなうまい話はない。きっかけはどこからでもいい。たとえば屋根の修理、そこからリビングの話しを持ちかけ、浴室に、キッチンへと行って10数万円で終わる話が何百万となっていく。これを1点突破全面展開の営業という。
O氏も同じで10万円位で終わる話が結局700万円を超えるリフォームをしたのであった。だが、これは業者に話を持ちかけられて広がったのではない。自分たちでどんどん広げたのである。O氏一家は夢多き家族なのである。さらに、乗りやすいタイプの家族なのであった。
だが、O氏の家族、話しはいつもまとまらなかった。O氏の父親は自分が大将でなければ気がすまないタイプであって、人の話しなど聞かない。その時も、勝手に業者を選んでしまったのだ。だがO氏は不満であった。というのも、どうも真面目さがない業者のように見えたからだった。
ガラの山を見て、やられたか、とO氏は思った。17年前、あそこにここにと、手抜きはいくつもあったのだ。しかし、床下を調べてみれば小判がザクザクというなら嬉しいが、屑の山がザクザクというのでは話にならない。屑が17年も眠っていたなんて、恥ずかしくって人には言えないとO氏は思った。
建築廃材など床下に埋めておくなんて、業者として失格だ。許せることではない。そう思うと涙をこぼすO氏であった。
業者選びの条件の1つに、工事現場をいつもきれいに清掃しているかどうか、ということがある。いい業者は朝に昼に夕方に清掃して、ゴミがない状態にしているという。1日5回も清掃を義務付けている会社もあるのだ。


[おかだ・けんじ] 住宅ジャーナリスト・NPO法人埼玉住まいの情報ネットワーク代表。
辛口『野次馬住宅時評』を発行。著書に『住宅のお値段・原価の秘密』『住宅業者の良し悪しがピタリわかる本』『住まいたちの半世紀』など。近著『昭和の住まい学』。
野次馬住宅net http://www.tcat.ne.jp/~yajiuma