H調査員はいま1つ、シロアリが喜びそうな箇所を指摘した。それは、基礎であった。H調査員の匍匐前進を阻み、4つも床に穴を開けなければならなかった床下の基礎である。
「増築したときに使わなくなった前の基礎は壊さないといけなんです。そうしておけば、私共も潜り込むことができるし、風も通り抜けることができます。風が抜けないということは、しろありの被害に遭いやすくなる」
そう言うのである。
シロアリというのは土の中で生活しているという。光が嫌いなのだ。ドラキュラみたいなんだ。そして空気の動きを嫌う。だから蟻道をつくって移動していくのだという。
木屑やごみはシロアリの餌場、O氏は17年前に快適さを求めてリフォームしたことによって、シロアリを呼び寄せていたのだった。その原因はごみと床下の風通しがわるくなったこと。
そんな指摘をされて、なるほど、とO氏は頷いた。リフォームも真剣勝負できちんとやらないと、たいへんなことになるんだなと思うO氏であった。
O氏はなにかと興味心旺盛な持ち主だった。消防車がサイレンを鳴らして走れば追いかける。救急車が通ればすぐに飛び出す。行列をみれば、なんだなんだと覗く。人の持ち物も取り上げて見たがる。だから人はO氏を野次馬人間と呼んでいた。
そんな野次馬のO氏は、H調査員にこんな質問をした。
「シロアリが土の中にいるのなら、床下をコンクリートで固めてあればシロアリはこない? ベタ基礎(注1)といって、地面をコンクリートで覆うやり方が多くなっており、シロアリ対策にも有効だといっていますよね」
すると、H調査員はこういう。
「ベタ基礎の家でシロアリ駆除をやった例はありますよ。ベタ基礎だから安心というわけではない」
コンクリートで地面を固め、囲んでしまうのだからシロアリも来ないように思うのだが、そうではないようだ。どんなに強固にした砦も弱点はある。ベタ基礎にも配管や金具などで穴や隙間があるのだった。それに工事のやり方で地面を固めたコンクリートもシロアリは貫通させてしまうのだそうだ。
このことについては、『「床下」が危ない!』(岡崎シロアリ技研・神谷忠弘著、エクスナレッジ)でも書いている。ちょっと引用させてもらおう。
床下から土が排除されコンクリートの空間となったとき、シロアリはどのように対応したのか。たしかに床下空間の湿気はホコリが立つほど低下した。しかし、シロアリの住む土に対しては逆に密閉と保湿がもたらされた。
また、法隆寺や薬師寺の棟梁で知られる西岡常一氏も、こう語っている。(注2)
そうですか。工務店から床下にコンクリートを流すように勧められましたか。床下は土をつき固めておくのがよいでしょう。土も生きているし木もいきているのやって、自然に授かった命を生かすように。セメントは水分を呼び、白蟻の温床になるのではないかと思います。
「青い鳥」のメーテルリンクはこう言う。「シロアリの文明は、人間の出現よりも一億年先行する」。(注3)さすがシロアリ、軟ではないのだ。
フーンと言ってO氏はまたも頷き、
「ベタ基礎の家は床下というのがないところがありますよね。点検口も無いでしょう。どうするんですか」
「いいところに気づいた。そうなんですよ、最近の家は点検口が無いので潜れないんです。これが困るんです。ベタ基礎も基礎は高くして点検口を設けるべきです」
そう、建築士でもあるH調査員は言うのである。
家は基礎が大事。でも、その基礎がいろいろ変化してきた。ウーン、基礎から勉強しなくちゃと思うO氏なのであった。
注1 地盤全体に鉄筋を配筋し、そこにコンクリートを流し込むのが「ベタ基礎」。耐震性に優れ、防蟻対策にも有効ということで最近はこの工法が多く採用されている。
注2 西岡常一と語る木の家は三百年 原田紀子著 (社団法人農山漁村文化協会)
注3 白蟻の生活 モーリス・メーテルリンク 尾崎和郎訳(工作舎)
(写真はベタ基礎の現場)
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[おかだ・けんじ] 住宅ジャーナリスト・NPO法人埼玉住まいの情報ネットワーク代表。
辛口『野次馬住宅時評』を発行。著書に『住宅のお値段・原価の秘密』『住宅業者の良し悪しがピタリわかる本』『住まいたちの半世紀』など。近著『昭和の住まい学』。
野次馬住宅net http://www.tcat.ne.jp/~yajiuma