床下探検を終えてH調査員は「建物健康診断書」を書いて渡してくれた。
建物の建築年数、面積、基礎の造り(コンクリート・石・煉瓦・その他)、基礎の高さ、床の高さなど建物の概要欄があって、その次に「環境条件」という欄があった。
土質 砂質・粘土質
水はけ 良・普通・不良
床下湿気 乾・普通・湿
通風 床下 良・普通・不良
通風 建物 良・普通・不良
赤字がO氏の家に付けられていたチェックマーク。環境条件は良くはない、普通でもなく不良が多い。若いころ俺は不良だった、息子も不良、床下も不良だった、わかるかなーと一人ぶつくさとつぶやくO氏。つぶやいて笑ってはいるが、不良の文字を見てショックだったようだ。
本当はO氏、不良だったこともない、そんな勇気はなかった。息子も不良ではない、普通だった。成績も普通だった。そう、O氏一家はみんなが普通、平凡な人生だった。これまでずっーと普通で生きてきたのに、不良、不良と書かれると、フラッとくる。O氏は不良に弱かった。免疫性がなかった。
腐朽 有
蟻害 有
シリアリの種類 ヤマトシロアリ
そして「被害部の状況」が書かれてあった。
浴室 土台 進行度 中
和室 土台 進行度 小
蟻害を受ける危険度 大
大した被害ではないとH調査員は語っていたが、こうして危険度大などと書かれると、ウーンと考えてしまう。心は大きく揺れる。テストを返された小学生のころを思い浮かべるO氏であった。
診断書の最後にこんな所見が書かれてあった。
(1)シリアリの道がある
(2)シロアリ被害あり(羽アリの発生)
(3)害虫類生息
(4)風の流れが悪い
(5)湿度強い
(6)風の流れをよくすること。土壌の改善必要
昼過ぎ、H調査員は「もう一軒、行くところがあるんです」と言って帰っていった。一枚の見積書を置いて……。
その夜、O氏宅では遅くまで家族会議が開かれていた。
「では発表します。驚かないでください。目を丸くしないでください。腰を抜かさないでください。みんな年なんですから。医者にかかると金もかかります」
とO氏は説明をする。またかよという顔のO氏の息子。うんざりする家族。
シリアリ防除 28.8坪×単価10,500円 303,187円
シロアリ巣の根絶 40.95?×単価4,725円 193,488円
竹炭 26坪×単価20,400円 530,400円
計 1,027,075円
オーという声があがった。100万かよとO氏の息子が言い、「俺、大学入試なんだけど」と小さな声でつぶやく。すると、O氏が「入試とシリアリにどんな関係がある」と怒鳴った。荒れ模様の家族会議だった。星は出ていても家の中は嵐、O邸いつもの光景である。怒鳴って失敗したなと思ったのか、O氏はすぐさま「あっ、入試もシロアリも共に入り込むのか。ハハハハ」とごまかした。誰も笑わなかった。
「入り込むとはなんだ。裏から入るみたいな言い方じゃないか。それにシロアリと一緒にするな」
白いご飯が飛んできた。O氏はじっと米粒を眺めた。シロアリにみえてきた。
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[おかだ・けんじ] 住宅ジャーナリスト・NPO法人埼玉住まいの情報ネットワーク代表。
辛口『野次馬住宅時評』を発行。著書に『住宅のお値段・原価の秘密』『住宅業者の良し悪しがピタリわかる本』『住まいたちの半世紀』など。近著『昭和の住まい学』。
野次馬住宅net http://www.tcat.ne.jp/~yajiuma