シロアリ防除を行って強烈な臭いに悩まされるO一家であったが、床の蓋がちょっとずれており、ぴったりとはまっていないことに気がついた。臭いがそこからもれていた。臭いものには蓋をしろ、というが、なるほど、蓋は大事だと思うO氏であった。
さっそく、N棟梁に連絡し、手直しをしてもらうことにした。そうかい、そうかいと言いながら棟梁、カンナで板を削り、調整する。
風呂場のタイル工事もやらなければいけなかった。だから8月の半ば過ぎからバタバタと人の出入りが始まった。忙しかった。
「あー、同じ色のタイルが無いなー。少し濃くなるけどいいかな」とタイル屋の主人。
N棟梁がいつも頼んでいるタイル屋で、同じ町に事務所を構えている。仕事が順調なのだろうか、数年前に事務所を新築した。
「風呂をタイルで貼るというのは最近どうですか、減っていますかね」とO氏。
「ああ、そうだな、ユニットになってきているからな。個人の家ではタイル工事もなくなってきているかな」
「でも忙しそうですね」
「あー、うちはね、パチンコ屋の仕事をやっているのよ。最近パチンコやってるかい。やってそうもない顔をしているな旦那は。パチンコ屋に行ってごらん、タイル貼りだから」
「そうかね、タイルかね、パチンコ屋は。それは仕事が増えていいねー」
「この間なんか、3日泊り込みよ。新宿の歌舞伎町、そこのパチンコ屋、改装でね」
タイル屋はパチンコで儲かる。もっとも仕事をしたあと、パチンコをやって損をしてしまってはなにもならないが。
そんな話を聞いて、さっそく翌日、新宿へとパチンコ屋見物に出かけるO氏であった。
ただO氏は見るだけ、やらないのである。数年前、数秒で何千円消えてしまい、それ以来手をだいていないのである。
「ほんとだ、タイルだらけだ。床もタイルだよ。つるつるだね。天井もかよ。色が黒かったら、クロコタイルなんちゃって」
チンジャラジャラというより、ジャラジャラジャラと騒音だねと思いつつパチンコ屋を出るO氏である。
パチンコの話はどうでもいい。ここはパチンコ屋を見に新宿まで出かけたO氏を引き戻し、風呂の改装工事の話をしてもらわなければいけない。
「今日は下地を塗っていくから。そうだな、乾いたら貼りにくるが、一週間くらいは風呂に入れないかな」
「しかたがないだろうな」
タイル屋の主人、手際よく作業を終えて帰っていった。
するとN棟梁がぶらりとやってきて、「どうだね、タイル屋は来たかね」と言う。作業を終えて帰ったところだと話し、一週間は風呂に入れないだろうと言うと、「そうかね、それじゃ、ほらあの温泉の入場券をもってきてあげるよ。この間、もらったんだよ」と棟梁は言う。
その日は温泉へと出かけ、「いい湯だな。ハハハ。たまには風呂のリフォームもいい。
なにか違う気分だ。一週間温泉だ」と温泉浴を楽しむO氏であった。
翌日のことである。新宿のパチンコ屋見学に出かけたO氏が帰ってみると、タイル屋の主人が作業をしている。
「また新宿に詰めなければならなくなったので、先にやってしまうから。そのほうが早く風呂に入れる」
そう言いながらタイル屋の主人、ガスバーナーで壁を乾かすのである。
「乾かないでやって大丈夫なんですか」
「ああ、昔と違って最近はすぐに乾くから」
「そんなものですか」
「そんなもんだ。よし、明日来るから」
そう言って去っていった。風の又三郎みたいなタイル屋だとO氏は思った。
その日もO氏は温泉へ。いい湯だな、と鼻歌気分。


[おかだ・けんじ] 住宅ジャーナリスト・NPO法人埼玉住まいの情報ネットワーク代表。
辛口『野次馬住宅時評』を発行。著書に『住宅のお値段・原価の秘密』『住宅業者の良し悪しがピタリわかる本』『住まいたちの半世紀』など。近著『昭和の住まい学』。
野次馬住宅net http://www.tcat.ne.jp/~yajiuma