ベッドというのを考えてみましょう。昭和40年代中ごろにインテリアが流行し、それにともないベッドのブームが起こります。経済企画庁(当時)の調査では昭和46年には5軒に1軒強の割合でベッドが普及していったといいます。どうしてベッドがブームになったのでしょう。
『ベッド流行のひとつの理由は、社会全般の個人主義化の傾向であろう。つまり、家庭のなかでの個人の独立化の進展であろう。その場合、ベッドは一種の隔離空間として機能しているのである。最も規模の小さい個人の城として作用しているのである。』(「日本人の生活空間」朝日新聞社 昭和49年10月30日第1刷発行)
戦後、生活の洋風化にともなって、個室願望も強まってきます。でも大きな家を建てることはまだできないので、せめて子どもだけでもと子ども部屋が先行してつくられていきました。親は我慢の時代があったわけです。でも、自分の空間が欲しいんですね。そこでベッドという手軽な城ということにつながっていったようです。
ベッドというのは1人だけの空間(スペース)、ベビーベッドも子どもたちの2段ベッドも自分だけの個室なのです。
昭和50年代になると個室願望はさらに大きくなります。
こんな広告があります。「自分の家なのに、個室がない。」というキャッチコピーの広告です。
『「子ども部屋がほしいから」で始まることの多い家づくり。間取りも、子ども優先になりがちです。
子ども室・リビング…目的に応じて工夫を凝らしても、夫婦の部屋といえば、機械的にひと部屋とるだけ。その家の“主”は夫婦にちがいないのに、いざ新居を考える時になると影がうすいような気がします。夫婦で過ごす時間を考えて自分たちの個性を主張する――そんな「夫婦室」が必要だと思います。』(日本電建 昭和55年11月)
住宅会社による「親の個室をつくろう」という提案です。いま住宅展示場に行けばどのモデルハウスも寝室がみられますが、昭和50年代はまだ一般的ではなかったのです。
大人も子どもも個室化に向かいましたが、その結果、ホテル家族とか言われるような家族がばらばらの状態も生まれてきました。これでいいのかなと思うこともあります。
家を個室のかたまりのように形づくっていく考え方を見直す必要があるようです。家は家族のためにあるわけで、家族の視点から空間を考えていってもいいのでなないでしょうか。壁で仕切って個室をつくるリフォームではなく、反対に壁を取り払って家族のコミュニケーションを図るリフォームもいいのではないでしょうか。

[おかだ・けんじ] 住宅ジャーナリスト・NPO法人埼玉住まいの情報ネットワーク代表。
辛口『野次馬住宅時評』を発行。著書に『住宅のお値段・原価の秘密』『住宅業者の良し悪しがピタリわかる本』『住まいたちの半世紀』など。近著『昭和の住まい学』。
野次馬住宅net http://www.tcat.ne.jp/~yajiuma