有名人のことばに学ぶ住まい学 [その1]

「やと」と「湿気」と「井上ひさし」

●山の湿気と海の湿気とがぶつかって谷(やと)にたゆっている

銭洗弁天画像雨の似合う鎌倉。しかし、「雨」「鎌倉」「やと」と3つ揃うと似合うどころではない。

鎌倉に住む人は「やと」というと「あぁ、あぁ」とうなづいて、どんなものかわかるはず。谷(やと)のことで、谷戸とも書く。低湿地のことである。それも水はけの悪いところとなる。

『ぼくがいま住んでいるのも谷(やと)のきわまったところで、その湿気にはすごいものがあります。山の湿気と海の湿気とがぶつかって谷(やと)にたゆっているらしいんですね。とくに梅雨(つゆ)から九月半ばまでは大変です。押入れの下には水滴がたまってる、革製品には黴(かび)が生える、本はシワシワになる。二階はまだいいんですが、下に降りてくると三十秒ぐらいでズボンが湿気を吸ってなんとなく重くなって、脛(すね)にまつわりつくようになる。湿気がこれほどのものとは思いませんでした。』(国家・宗教・日本人 司馬遼太郎/井上ひさし著 講談社文庫)

こういうのは鎌倉に住む作家の井上ひさし氏(1934年生まれ。[吉里吉里人」「四千万歩の男」「父と暮せば」など)。司馬遼太郎氏との対談での話だ。

井上ひさし調のおおげさな表現と思って割引しても鎌倉「やと」の湿気、すごいものというのがわかる。鎌倉に住む人はいいなーと思ったりするが、こんな悩みもあるようだ。

●「やと」だから湿気対策

当然、湿気対策が大事になる。鎌倉・やとに建てる家の注意点を地元の工務店に話を聞くと、

・基礎を高くした高床式の建物に。
・土地の改良をすることも必要。
・湿気を吸う壁にする。しっくい壁もよし。
・無垢の床がいい。
・換気を十分に。

といった話をしてくれたが、「やと」ならではの工夫が必要なようだ。
また、リフォームするときには「やと」の熟知した業者に頼んだほうが無難なよう。

 

岡田 憲治プロフィール

[おかだ・けんじ] 住宅ジャーナリスト・NPO法人埼玉住まいの情報ネットワーク代表。
辛口『野次馬住宅時評』を発行。著書に『住宅のお値段・原価の秘密』『住宅業者の良し悪しがピタリわかる本』『住まいたちの半世紀』など。近著『昭和の住まい学』。
野次馬住宅net http://www.tcat.ne.jp/~yajiuma

 

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