有名人のことばに学ぶ住まい学 [その8]

「大人になること」と「子ども部屋」と原田康子さん

●大人になること、自分の世界をもつこと

自分の部屋がほしいと子どもたちが言ったとき、親はどんなことを考えるのでしょうか。
シェークスピアの「ハムレット」ではないけれど「与えるべきか、与えないほうがいいか」と悩む人もいるのではないでしょうか。それほど親にとっては“子ども部屋”という空間は悩ましいところなのです。

『それはウナギの寝床のような細長い部屋で、立って歩くと、天井に頭のつかえそうな屋根裏部屋でした。/学校を出てから、私はその部屋に脱出しました。私は小説めいたものを書きはじめていましたから、なんとか一人の部屋がほしかったのです。』
と書くのは作家の原田康子氏(「挽歌」がベストセラー。北海道釧路育ち。1928年生まれ。2009年10月20日、81歳で死去)。「イースターの卵」(朝日新聞社)所収の「一人の部屋」という随筆です。
子どもの立場から“自分の部屋”について論じるのですが、もう少し、話を聞いてみましょう。
『おそらく、みなさんもおなじではないかと思います。小説など書かなくとも、一人になりたいと思うことがあるでしょう。格別きょうだい仲が悪くなくとも、一人で落ちつける部屋がほしいと思うことがあるでしょう。
 それは、あなたが大人になりかけている証拠です。一人の世界を持ちはじめている証拠です。大人になるということは、あなたはあなた自身であって、他の何者でもないと気づくことです。個性がかたちづくられてゆくことです。』

●「子ども部屋」ではなく「一人になれる空間」

「大人になりかける」「一人の時間」「一人の空間」「個性の形成」—-原田さんはこれを一本の糸で結んでいます。親としては大人になりかけるタイミングを見極めることが大事なのでしょうが、一人の空間はダメといくのではなく、子どものこころというのも見ないといけないようです。
『屋根裏の納戸は、ガラクタでいっぱいでした。勉強机を入れるとすき間もなる、寝るときだけは妹たちと同じ部屋で寝ましたが、私は小さなすわり机を持ちこんで、ひまをみては納戸ですごしました。/そういう部屋でも、一人の時間を持てたことはしあわせだったと思います。』


子ども部屋について、あれこれ論じられたりしますが、ここは原田さんの表現するように、「一人になれる空間」と考えていくと、子どもの視点で見つめることができるかもしれません。
「子ども部屋」をつくるかどうかではなく、子どもたちの「一人になれる空間」があるかどうか、一度かんがえてみるのもいいのでは。

岡田 憲治プロフィール

[おかだ・けんじ] 住宅ジャーナリスト・NPO法人埼玉住まいの情報ネットワーク代表。
辛口『野次馬住宅時評』を発行。著書に『住宅のお値段・原価の秘密』『住宅業者の良し悪しがピタリわかる本』『住まいたちの半世紀』など。近著『昭和の住まい学』。
野次馬住宅net http:// www.tcat.ne.jp./~yajiuma

 

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