有名人のことばに学ぶ住まい学 [その11]

「アンチ・バリアフリー・ハウス」と「狭い空間を愉しむ」と島田雅彦さん

イメージ画像●「住んでいるだけで運動になる家」

東京生まれ川崎育ちの作家で『優しいサヨクのための嬉遊曲』『彼岸先生』などの小説で知られる島田雅彦さん(1961年生まれ)が書いた住宅論があります。『衣食足りて、住にかまける』(光文社)という本で、2004年11月に発行されました。
『全体は四層からなっており、うち三層分は下り専用のエコエレベーターで結ばれている。エコエレベーターとは一本のステンレスパイプの滑り棒のことで、電気を使わないので、この名称になっている。』
消防署で緊急のときにスーと降りていくあのパイプを作ったというのです。人は「危険な家」と呼んでいると書いていますが、さらにこんなことも。
『我が家には必要以上に段差が多い。どこへ行くにも階段や敷居を越えなければならない。最大の段差は、カフェと奥座敷のあいだをカウンターの右側から越える時で、助走をつけないと上り切れない。』
すごい家ですね。というのも、日頃の運動不足を解消しようと「空間の移動に運動を要するように家を設計」したようです。それにしても助走しないと上れないというのは、普通じゃない。スポーツジムですね。
「住んでいるだけで運動になる家」を考えたのは老後の備えとも書いています。
『バリアフリーはボケを促進するという報告を真摯に受けとめた結果が、このアンチ・バリアフリー・ハウスなのである。』
本当に危険なで、恐い感じですが、「住んでいるだけで運動になる家」というのはいいですね。そんなリフォームをしてみたい気もします。

●狭い空間を愉しむリフォームもいい

住宅論の本なので日当たりのこと、トイレのこと、快適性についてなどいろいろなことが書かれてありますが、ここでは第三章の「狭い空間は愉しい」からちょっと引用させてもらうことにしましょう。
『創造の仕事には狭い部屋が向いている。』と島田さん。小説を書くには刑務所の独房が絶好な場所だといいます。普通の人は刑務所になかなかは入れませんが、似たような空間として茶室があります。
狭い空間を広い空間にというのがリフォームの一般的な動機ともなりますが、島田さんは、逆に狭い空間の効用を説きます。キッチンもわざと狭くしたようです。
『厨房に立つとすべてのものに素早く手が届く。そういう利便性を考えると、広ければいいというものでもない。むしろ狭いほうがよかったということもある。』
狭い空間を愉しくするリフォームを考えていくのも、それこそ愉しそうです。
さらに島田さんはこうも言います。
『河原や海岸のような広い空間では、人は放心するものであり、逆に集中して物事を考えたり、突き詰めていく時は狭い書斎やトイレに自分を閉じ込めるのがいい。でも、狭い空間に閉じこもりきりでは、考えが煮詰まってしまう。そんな時ににわかに広い空間に頭と体を解き放ち、再び狭い空間に戻ってくると、閃いたりするものだ。』
島田さんの狭い空間と広い空間を上手に使いこなそうという意見は参考になります。わざと広い空間と狭い空間を作り出すリフォーム、それもおもしろそうです。

岡田 憲治プロフィール

[おかだ・けんじ] 住宅ジャーナリスト・NPO法人埼玉住まいの情報ネットワーク代表。
辛口『野次馬住宅時評』を発行。著書に『住宅のお値段・原価の秘密』『住宅業者の良し悪しがピタリわかる本』『住まいたちの半世紀』など。近著『昭和の住まい学』。
野次馬住宅net http:// www.tcat.ne.jp./~yajiuma

 

バックナンバー