「鬼平犯科帳」「剣客商売」「仕掛人・藤枝梅安」などの小説で知られる作家の池波正太郎さん(1923〜1990)のエッセイには住まいのことも結構多く書かれています。教訓的で刺激的な言葉です。リフォームをしようと思ったときに、ちょっと立ち止まって池波さんの言葉を思い出してみてください。
『家というものは、よほどのことがないかぎり、簡単に移り変えるべきものではない。
そして、その家において、私の曾祖母の死を祖母が看(み)取り、祖母の死を母が看とったように、代々の人々の歴史が家にきざみついていなくてはならぬ。
子供たちは、無意識のうちに、そうした出来事を脳裡(のうり)にきざみつけていて、それが成長してからの糧(かて)となるのだ。』(作家の四季、講談社文庫)
孟子三遷といって孟子の母親は移り住むことで子どもの教育を考えました。「転居のすすめ」の人でした。池波さんはその反対。一か所に代々住んで、三世代が同居しながら子どもの教育を考えるというもの。どちらが正しいかということではなく、一度考えてもいい問題です。
『いま住んでいる家を建てたとき、その機能が石油と電気のみにたよるのではなく、むかし、父母や私が暮していた家と同じように、現代では原始的だと笑われそうな設備をほどこしておきたいとおもった。不安だったのである。』(一年の風景、朝日文庫)
もしも電気が止まったら……。ご飯も炊けない、風呂にも入れない、電話も使えないという時代です。便利にしようとリフォームするのもいいが、池波さんが言うように“原始的”な部分を残したり、取り入れたりすることも大事なようです。
●「家の中の戸をすべて引き戸にすること」『この家を建てたとき、私が設計のT氏に注文したのは「家の中の戸をすべて引き戸にすること」だけだった。
せまい間取りへ、たくさんの引き戸を設けたのだから二重三重の敷居をつけるわけだし、工事に手間がかかるけれども、できあがってみると、小さな家には、これほど便利なものはない。』(一年の風景、朝日文庫)
狭小住宅に引き戸ほど便利なものはありません。狭い空間を自在に開けられるのです。ドアをあけたら子どもの頭にバシンということもありません。引き戸は日本古来からの知恵、リフォームするなら引き戸です。

[おかだ・けんじ] 住宅ジャーナリスト・NPO法人埼玉住まいの情報ネットワーク代表。
辛口『野次馬住宅時評』を発行。著書に『住宅のお値段・原価の秘密』『住宅業者の良し悪しがピタリわかる本』『住まいたちの半世紀』など。近著『昭和の住まい学』。
野次馬住宅net http:// www.tcat.ne.jp./~yajiuma