有名人のことばに学ぶ住まい学 [その16]

「サラダ記念日」と「元気な台所」と俵万智さん

イメージ画像●「この味がいいね」と君が言ったから……

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日

大ベストセラーの歌集「サラダ記念日」で第32回現代歌人協会賞を受賞した俵万智さん(歌人、1962年大阪生まれ)。日常の場面をサラッと歌います。「この味がいいね」の歌もそうですが食べる、料理するという歌も多いようです。

「湯豆腐を好める君を思いつつ小さな土鍋購いており」
「トーストの焼きあがりよく我が部屋の空気ようよう夏になりゆく」
「オムライスをまこと器用に食べおれば<ケチャップ味が好き>とメモする」

(「サラダ記念日」河出文庫)

「トーストを二枚焼こうとして気づく今日から一人ぶんの朝食」
「肉じゃがの匂い満ちればこの部屋に誰かの帰りを待ちいるごとし」
「白和えを作ってあげる約束のこと思い出す別れたあとで」

(「チョコレート革命」河出文庫)

でも、どれもちょっと寂しい歌ですね。

●元気な台所は、「生きていることの嬉しさ、豊かさを、最も感じさせてくれる場所の一つ」

歌は寂しいですが、俵さんが求めている台所風景は明るいものです。「りんごの涙」(文春文庫)というエッセー(「母と私と台所」)ではこう書きます。
『母と娘が台所にゆっくり立つというような時間は、慌ただしい今の社会の中で、どんどん少なくなってきているようだ。母親だって忙しい。娘だって忙しい。デパートのおかず売り場は充実しているし、おいしいレストランもたくさんある。けれど、あの時間の豊かさは、何ものにもまさるものだった。一人暮らしも十年になろうとする今日このごろ、あらためて思う。』
俵さんが“あの時間の豊かさ”というのは、台所で母親が教えてくれた料理のこと。親子で立つ台所を俵さんはすばらしいものだと書くのです。
『大げさに言えば、その国の文化のすべてが、台所にはある。食物の旬は、季節感を教えてくれる。材料を買うことは経済行為である。……固い言葉を並べてしまったが、こういう難しげなことを、まことにやさしく、お母さんの知恵として伝えられるのが、台所の魅力なのだと思う。そしてそこでのコミュニケーションは、食卓へのコミュニケーションへとつながる。それが家族というものであろう。』
台所が結ぶ家族の絆というのが、いいですね。
そして俵さんはこう結びます。
『元気な台所、にぎやかな食卓。私にとってそれは、生きていることの嬉しさ、豊かさを、最も感じさせてくれる場所の一つである。』
元気な台所、にぎやかな食卓――いい言葉です。親子で台所に立って楽しい会話、そしてにぎやかに食卓を囲む、そんな場面をつくっていきたいものです。

岡田 憲治プロフィール

[おかだ・けんじ] 住宅ジャーナリスト・NPO法人埼玉住まいの情報ネットワーク代表。
辛口『野次馬住宅時評』を発行。著書に『住宅のお値段・原価の秘密』『住宅業者の良し悪しがピタリわかる本』『住まいたちの半世紀』など。近著『昭和の住まい学』。
野次馬住宅net http:// www.tcat.ne.jp/~yajiuma

 

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