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82歳になる義母から突然、「松葉杖を買ってきて欲しい」と電話があった。
話をよくよく聞くと、「右の足首から下が赤く腫れ上がり、床に着くと痛くて歩けない。医者に診て貰ったら捻挫だと診断された。松葉杖を貸して欲しいと頼んだら、高齢者には危ないので貸せないと言われた」と言うのである。さっそく、介護用品のレンタルショップに行って松葉杖を試してみたところ、大いに気に入った様子。杖の代わりに普段も使いたいと言うので、お取り寄せの手続きを済ませて帰宅した。
「これは、ただの捻挫じゃないな」
失礼ながら、おばちゃん夫婦の見解はお医者様とは違った。2年前にも同じ症状で1ヶ月近く入院していたからだ。
「入院だけは絶対嫌だ」という義母は、前回とは別の病院に行き、以前の病状を隠したまま、「捻挫」という病名を頂いてホッとしたらしい。けれども、息子夫婦はそれでは済まない。「早くきちんとした診療を受けさせないと、大変なことになるぞ」と気が気でない。
夕食の話題も、おのずと最悪の事態を予想した上での対策会議が続いた。
「もし、このまま歩けない状態が続いたとして・・・」
話はいつもここから始まるのだが、82歳と87歳の両親がいることを考えると、この種の対策会議としては遅いくらいだ。
「寝室、茶の間、台所の壁をぶち抜いてワンルームにしたらどうだ。床も平らにする」
両親の家はまったくの昔ながらの日本家屋で、寝室、茶の間、台所がすべて独立しているのだ。しかも寝室は狭い。
「壁をぶち抜いたら、建物の強度はどうするのよ」
「鉄骨の梁と柱を入れたら大丈夫だろう」
と、肝っ玉が太いというか、考えることがデカイ。
「せっかく二間続きの和室があるんだから、そこを茶の間兼寝室にしたらどう。お金の問題もあるし、今ある間取りを生かす方がいいと思うけど」
「あの部屋にはテレビのアンテナ線が付いてないからな。テレビなしの部屋は考えられないよ。それにポータブルの電気ストーブだけじゃ、冬は寒いよ」
「それなら、茶の間を寝室兼リビングにして、リクライニング式のベッドを置くしかないわね。広いし、明るいし、テレビもある。庭もよく見えるし、お客さんが来てお喋りしていくにももってこいだし。台所も近いから、床の段差を無くせば行き来も楽じゃない」
「問題はお風呂とトイレ」
「風呂は、いざとなったらデイサービスを利用するしかないだろう。広けりゃいいって問題じゃないし。それよりトイレだよ。あそこだけは壁をぶち抜いてやる」
と、まぁ、息子夫婦の会話の中で、義母の症状はどんどん悪化の一途を辿っていく。
あれから1週間、大儀がる義母をなだめながら別の病院に連れて行き適切な処置をして貰ったところ、松葉杖が届いた頃には、杖なしで義母は歩けるようになった。
しかし、元通りになるまではまだまだ時間がかかる。それに二度あることは三度あるというから油断はできない。
それにしても、一口にリフォームといっても、間取り上であれこれ考えるのは簡単だが、いざ実行に移そうと思うと、建物の強度の問題や設備の問題など、机上のプラン通りには行かないことが多いことには驚いた。そこに気づいただけでも、今回の作戦会議は一歩前進としておこう。
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