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ぶつくさおばちゃんの独り言
「柱のキズは何とやら」の巻
エッセイスト ぶつくさおばちゃん

古民家のリフォーム見学会があるというので行ってきた。

 今回のお宅は築50年の農家。床下の湿気がひどく地盤沈下も起きていたため、敷地内の別の場所に新たに基礎を打ち直し、その上に建物を移動したのち、和室と一部の構造体だけを残して全面改築、という大掛かりなものだ。

 話を聞いておばちゃんは、すかさず頭の中でカシャカシャと電卓を叩いた。

 「あのー、ここまでやるくらいなら、建て直した方が費用も安く済むんじゃないですか。構造的にも安心だと思うんですけど・・・」

 と、前々から疑問に思っていたことをさっそく質問してみた。

 「うーん、たしかにお金は余計にかかりましたよ。でもね、お施主さんが、和室だけはどうしても、このまま残したいと仰るものですから」と、営業マン氏。

 玄関を上がり、居間に入ると、剥き出しの梁や天井の骨組みが、で〜んと目に飛び込んできた。50年という歳月を支えてきた梁は太く黒光りし、手斧の跡がたくましい。

 奥に進んで、この家のご主人がどうしても残したかったという和室を拝見した。

 縁側に面した10畳ほどの和室は、床柱をはじめ、使われている材料も細工も飛び抜けて豪華というものではなかったが、足を踏み入れると自然と背筋が伸びた。寸部の透きもない丁寧な職人仕事。床の間や天井、欄間は綺麗に洗われ、白く再びもとの木肌が現われてはいたが、新築では絶対にだせないだろうな、と思える静寂があった。

 そうだ、ここはお父さんの昼寝用の畳部屋じゃない。幾度となく家族の冠婚葬祭が執り行なわれてきた特別な場所なのだ、と気がついた。

 ふと、床柱の上の方に、洗われて蘇った古い落書きを見つけた。

 「××のバカ」。兄弟げんかでもしたのだろうか。そういえば、おばちゃんも子供の頃、兄弟げんかの腹いせに、座敷の襖いっぱいにクレヨンで悪口を書いて、大目玉を食らったことがあったっけ・・・。

 「ほら、昔よく大掃除の畳上げの時に、畳の下の敷かれていた古い新聞を見つけて読みふけったじゃないか。なんだかそんな気分だね。家族の歴史が蘇ったというかさ」

 と、同行した父ちゃんも感慨に浸っている。

 この家で二代、三代と継がれてきた命、そしてこれから先も継がれていくだろう新しい命。そんな子供たちが、この落書きや黒光りした梁を眺めながら、遠い日の家族に思いを馳せる日がやって来るのだろうなぁ・・・。そう思うと、得も言われぬ厳粛な気持になった。

 

 それだけに、補修を手掛けた職人さんの仕事の粗さが惜しまれた。

 「でも、それはしょうがないのかもしれないな。今の時代の家づくりは、熟練職人でなくても家は建てられますという方向でシステム化されているんだ。システム化で時間を稼いでいる間に、次の世代を担う職人に伝統技術をしっかりと伝えておかなければ、そのうち大工さんの大半は外国人という時代になるかもしれないぜ。きついだけで誇りも尊敬もされない仕事に、やる気のある若い者が魅力を感じると思うかい」

 折しも、高齢者世帯の多いわが家の周辺では、築10年かそこいらの住宅が、相続税対策や子供たちの実家離れで、次々と壊されてアパートに変わっている。様々な家族の思いを詰めて建てられたはずの家が、あっけなく壊されていく。

 家ってなんだろう。いつになくセンチメンタルな気分になった。

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ぶつくさおばちゃん
エッセイスト。雑誌・新聞社、住宅メーカーなどの編集業務に携わり、現在、エッセイストとして活躍。

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