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ぶつくさおばちゃんの独り言
「レバノンでおばちゃんも考えた」の巻き
エッセイスト ぶつくさおばちゃん

4月に、映画「アラビアのロレンス」や「インディージョーンズ」の舞台にもなった、シリア、ヨルダン、レバノンの3カ国を巡るツアーに行ってきた。

 周囲は、「そんな物騒な所に行くやつの気が知れん」「そんなところに行って何が面白いの」とあきれかえっていたが、中東は知る人ぞ知る歴史の宝庫、世界遺産の宝庫でもある。フェニキア、ギリシャ、ローマ時代などの古代都市遺跡が、町の一部として今も共存し、円形劇場など当時の姿のまま使われている施設もある。

 正直なところ、かく言うおばちゃんも初めて古代都市遺跡なるものを訪れるまでは、「あんな廃墟跡を見て何が面白いのかねぇ」と思っていたし、修復や保存のためにかかる莫大なお金を、「今生きている人たちのために、他に使いようがあるんじゃないの」なんて鼻白んでいたこともある。

 ところが、12年前に初めてトルコのエフェッソスの遺跡に立ったとき、その思いは吹き飛んだ。クレオパトラがエジプトの船でエフェッソスの港に降り立ち、歩いたと言われるメインストリート。世界最古の図書館跡、隊商宿に公衆浴場跡・・・。そして、なんとなんと、水洗トイレまであった。しかも遺跡に佇んでいると、通りのざわめきや行き交う人々の息づかいが、今まさにその時代のまっただ中にいるかのように、ヒタヒタと伝わってきたのである。おばちゃんには霊感らしきものはまったくないが、この不思議な感覚はその後もいくつかの遺跡で感じることができた。

 考えてみれば、世界中から集まった何十万、何百万という人々が行き交い、暮らしてきた古代都市遺跡である。もしかしたら自分の中には、彼らのDNAのひとかけらが、ほんのちょっとでも受け継がれているのかも知れない。とまぁ、巨大遺跡を訪れると、考えることもついつい大きくなってしまうのである。でも、これって、すごいロマン!

 今回の旅行も遺跡をたっぷりと楽しんだ。ところが帰国してわずか3ヶ月後、レバノンの空爆である。「中東のパリ」と呼ばれた、あの美しい首都ベイルートとバールベックの遺跡までもが爆撃に晒される様子をテレビで目にして、本当に悲しくなった。

 中高年のお父さん、お母さん方ならご存じだと思うが、ベイルートは、あの赤軍派の重信房子女史が長年潜伏し、軍事訓練をしていたとされる街である。しかし訪れてみると、予想に反して風光明媚な、地中海に面した美しい街であった。長い長い内戦からようやく解放され、街の再建も進み、ヨーロッパ風に洗練された街並みはリゾートを楽しむ人々で溢れていた。

 おばちゃんは、「彼女はコマンドとして埃っぽい砂漠の中で長い間戦い続けていた」と固く信じ込んでいたので、現実の光景とのギャップに何だか裏切られた思いがして、「ずる〜い。もう彼女のことは革命家とは呼ばないぞ」と心の中で叫んだくらいである。

 旧市街は「すべて内戦前と同じ状態に」という、この街の人々の熱い思いによって復元されていた。そんな街の一角に、内戦で焼け残った映画館や一部の廃墟跡、昨年暗殺された前首相の爆破現場が、歴史の生き証人として生々しい姿で残されている。

 すべてをスクラップ&ビルドするのではなく、次世代に受け継ぐべきものは残し、再建すべきものは再建する。「これって、何だかリフォームに似ていないか。うん、これぞまさしく都市のリフォームだ」と、父ちゃんはまたしても感激しきりである。ただ、受け継ぐべきものが内戦の傷跡というのが、おばちゃんはちょっと悲しい。

 そして再び始まった爆撃。あとどれだけ負の遺産を積み重ねれば、この街はリフォームを完成させることが出来るのだろうか。袖摺り合うも他生の縁というが、とても人ごととは思えない日々が続いている。

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ぶつくさおばちゃん
エッセイスト。雑誌・新聞社、住宅メーカーなどの編集業務に携わり、現在、エッセイストとして活躍。

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