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新・快適生活図鑑 第15回
団塊の世代の懐かしい昭和30年代の家つくり
―五感に記憶した30年代の感性を
   掘り起こすシチュエーション―

建築家 児島敬子

団塊の世代が今年から定年を迎えるとあって、いろいろなところで「団塊の世代のリフォーム」というテーマでセミナーや特集が企画されています。
そこで団塊の世代にとって、この懐かしいメロディーのようにうきうきした心地にさせてくれる、昭和30年代の家はどういうものかを考えてみることにしました。

一昨年執筆中の本の中で、「暮らし方の移り変わり―台所+茶の間からLDKへ」という原稿を書くにあたって、昭和30年代の半ばに田の字型の民家の土間を改装した母の実家の図面(図―1)を思い出しながら描いていたときに、懐かしいメロディーを歌ったときのようなうきうきした心地になった記憶があります。

図面を描きながら、夏休みにいとこ達と「手がぶつかった」「消しゴムを盗った」とかと喧嘩をしながら茶の間の座卓で宿題をしたときのこと、近所のおじさんが、勝手口から畑で採れたスイカやトマトを持ってきてくれ、それを外流しの自家水道の井戸水で冷やし、夕食後に食べるのを楽しみに待っていたこと、襖を開け放った部屋に布団を並べて敷き枕を投げ合って遊んだこと、遊び疲れて布団に入ると、蛙の啼き声や、虫の鳴く声が聞こえてきたことなど、いろいろなことが思い出されて心が高揚してきたのです。

また改装前の、玄関から裏庭に続く広い土間や土間の東側にあった小屋裏付きの暗い納屋を駆けずり回り、「家の中を駆け回ってはだめ」とおばさんに何度となく叱られても懲りずに鬼ごっこやかくれんぼをしたことや、梯子で登る小屋裏から下の土間を行き来する人を見下ろし、なんともいい気分に浸っていたことなどが懐かしく思い出され心がうきうきしてきたのです。そして当時はうるさく思っていたおばさんの小言が、家事をしながらも子供達の遊ぶのをいつも見守っていてくれたおばさんの優しさだと気付き、その暖かさと懐かしさで心の高揚を覚えたのです。

これらのさまざまな状況の中で五感に記憶した感覚が、思い出しながら図面を描くことで掘り起こされ、あの楽しかった10代の頃の気持ちに戻り、心が弾んできたのだろうと思うのです。

団塊の世代にとっての懐かしい昭和30年代の家を造るには、当時あった土間や茶の間、縁側といった「もの」があるだけでなく、子供同士のたわいのない喧嘩や悪戯、おばさんの小言や、採りたてを食べさせてあげようという人の良いおじさんかける声や戸の開ける音といった、そこに暮らし家族を含め周りの人々と心がつながる状況や、すいかを冷やす井戸水の音やその冷たさ、冷蔵庫で冷やしたのとは違うスイカやトマトの味、蛙や虫の啼き声、玄関から裏庭に抜ける風の心地よさ、土間のひんやりとした臭いや庭の草いきれといった自然とつながる状況、人の気づかないところから見下ろす心地よさを味わえる状況、といった五感に記憶した感性を掘り起こす、「もの」が生きるシチュエーションがなくてはならないのではないかと思います。そしてこのシチュエーションが、懐かしいメロディーの役目をして、心の底に眠る当時の感性を鼓舞してくれるのではないかと思うのです。

そのシチュエーションは、育った環境や性格によっても違うと思いますが、その人その人ににあったシチュエーションを探し、提案していきたいと思っています。

最後に先日見学した「サント式住宅」というネーミングで売り出した昭和30年代住宅のモデルハウスで、私の感性を鼓舞してくれたシチュエーションを見つけたのでその写真(写真−1)を載せます。これは上記の納屋の小屋裏から下の土間を覗いた時に感じた感情に似た感覚を覚えたからです。


団塊の世代にとっての懐かしい昭和30年代の家を造るには、当時あった土間や茶の間、縁側といった形ではなく、そこに暮らし、家族を含め周りの人々とのつながりや当時の自然や社会状況のなかで、五感に記憶した感性を掘り起こすシチュエーションがなくてはならないのではないかと思います。

このシチュエーションが、懐かしいメロディーの役目をして、心の底に眠る当時の感性を鼓舞してくれるのではないかと思うのです。

最後に先日見学した「サント式住宅」というネーミングで売り出した昭和30年代住宅のモデルハウスで、私の感性を鼓舞してくれたシチュエーションを見つけたのでその写真(写真−1)を載せます。これは上記の納屋の小屋裏から下の土間を覗いた時に感じた感情に似た感覚を覚えたからです。

図―1
写真―1 小屋裏から見た土間の風景
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住宅ジャーナリスト 岡田憲治 児島敬子
プロフィール
デザイナー・建築家。1983年にトータル・ライフコーディネートスタジオ「ZAZA」を開設。1988年、ヒューマンスケールで考える住環境設計を加え、インテリア建築デザイン事務所「ZAZA―YOU、CO」を設立。家が「ゆったりと豊かな時を過ごせる心のすみか」となれるスペース作りを目指し活動を続けている。著書に「インテリア製図の描き方」など。
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