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新・快適生活図鑑 第30回
高齢身障者のリフォームで考えた段差調整具
―依頼主・理学療法士・設計者・施工者4者の
      立場からの意見を出し合い作る―

建築家 児島敬子

仕入先のアパレルメーカーの営業部長から、「あちこちからいろいろな古道具を買ってきて裏通りで小さなブティックをやっている女性オーナーが、『本通りのにぎやかな商店街に店を移転するので、この古い什器を生かした店舗設計をしてくれる人を紹介してほしい。』と頼まれたので相談にのってあげてほしい」と依頼があった。

その店に行ってみると、狭い店の中に大きさのまちまちな古い什器と、ホームセンターか通信販売で買ったような什器がごちゃごちゃと無造作に並んでいて、ゆっくりと物を見るスペースさえない状況だった。

その古道具として安く買ってきたという什器は、色がはげたり角が落ちたり、なかにはペンキで塗り替えたりしたものもあった。

しかしこの什器は、今作ったら数十万円かかるものや百万円以上もするものだった。「これらが蘇える店舗設計をしたい」とそのとき私は思った。そこで彼女に移転する店舗を見せてもらうことにした。

ところがこの店がまたひどい。確かに人通りの多い商店街の中央にはあった。が、20年以上も経った4階建ての下駄履きアパートの西南の角で、80歳になるビルの女性オーナーが,このビルの不動産管理をするためだけに店舗にしたものだそうで、ビルの他の店舗の内外装とは違いかなり安普請のものだった。サッシは安いブロンズ、ガラスは縦横の網入り、自動ドアは壊れ、サッシ枠にはカーテンレールがビスで留めてしまってあった。床は薄いPタイルでところどころめくれていた。そんな状態なので家賃が安かったのだろう。                        

依頼主の女性は独身のため、老後を考えるとあまり予算は取れないと言うが要望は高い。同じ商店街にある一番大きくてセンスのよいブティックの、床材と西日を避けるための木製ブラインドが気に入っているので見てほしいと言う。そこで帰りに見に寄った。

床材は外材だが、15センチ幅の松柾の無垢材をオイルスティンで塗装してあった。彼女はこの濃い部分と薄い部分がきれいに出ているのがいいと言う。赤松をオイルスティンで塗装しないとこの味は出ない。「これはあなたの予算ではできない」と言うと「それだけは予算を増やしてもしてほしい」と言うのでそうすることになった。しかし、もう1つの木製のバーティカルブラインドは、予算が上がるだけでなく、10坪程度の店には重過ぎるとアドバイスし、ポリエステルのバーティカルブラインドを勧め、彼女はそれを了解した。

「こんな風にするのはよいが、あのサッシとガラスでは、この床やバーティカルブラインドが生きない。ファサードを取り替える予算がないならば、できるかどうかわからないがアルミの枠を塗り替え、ガラスを透明に替えるべき」とアドバイスし、彼女はそれも了解した。

美装さんに相談したら、今はアルミ枠でも既成のメーカーのアルミ枠の色ならば塗り替えができるということで、枠をアーバングレーに塗り替えガラスを透明に替えることにした。

古い什器類は、存在感が一番あるシャツケースの色にそろえ、補修や塗り替えをすることにした。また新しい什器や建具もその色で統一して作ることにした。

しかしそのシャツケースの色は、彼女が予算をオーバーしてもやりたいという床の色に近い。それではせっかくの床もシャツケースも生きない。そこで床をシャツケースの下だけ石の乱張りにすることにして設計した。(その設計図面が図−1・2・3) 図面を見た彼女は大喜びで、すぐ取り掛かることになった。


什器のアイソメ図

が、工事が始まる寸前に、彼女は他にも難題を持ちかけてきた。どこかの大きな店で使っていたものをもらった幅2000・高さ900のフロスト加工したガラスに、店の名前を入れてサイン台を作ってほしいと言うのだ。「10坪程度の店には無理です」と言ったがどうにかしてほしいと泣きつかれ、仕方なくスペースとデザインを考え作ることにした。(図3の左奥)

古い什器の塗装補修はさほど大変ではなかった。が、剥離しての塗り替えは、什器それぞれが違った部材なので大変な作業だった。またその色と同じ色で新しい什器を作るのもこれまた大変な作業だった。

古い什器は焼けている、また剥離材を使っているものもある。同じ材料のオイルスティンで塗装をしても同じ色にはならない。塗師といわれる職人と家具職人が、この大変な作業を受けてくれた。その代わり搬入時にはなにかにつけて設計士の私にずっと愚痴を言っていた。
タイル屋さんも大工さんも大変だった。タイル屋さんは、中央のこんな狭いスペースの変形した中に、どうやったらきれいに乱張りできるかと、石を並べて眺めている時間のほうが張る時間より数倍かかった。

また大工さんは、中央の変形した形に張った石の周りに、値段の高い赤松の無垢材を図のように変形に張るために、すべて図面に従って無駄が出ないように切り、さらに濃い部分と薄い部分がきれいに出るように貼らなくてはならなかった。手間は3倍かかった。

このように職人達が愚痴を言いながらも大変な作業をしてくれたおかげで、どうにか店舗は出来上がった。(下記の2枚の写真) 小さな店だが温もりのある空間に仕上がった。什器を搬入すると、通りかかりの人が「何の店になるのですか」と大勢と聞きに来た。「ブティックです」というと、特に男性は、「婦人服じゃ僕は来られない」とがっかりして帰られた。中には「オーナーに男物の服も置いてくれるように頼んでよ」と言ってくれる人もいた。

それを聞いていた職人達は「小さいのに大変な思いをしたけどとてもいい気分だ」と言って喜んでくれた。

職人達は、あいつがそこまでやるなら俺もいい加減な仕事はできないと、愚痴りながらも職人の意地を通し、見積もり以上の大変な仕事をやってくれたのだと思う。

それができたのは、彼女の持っていた古い什器があったからだ。職人達は、それをどうにかしてでも生かしたいという私の思いをわかってくれただけでなく、彼等もこの古い什器の持つ存在感に魅せられたからではないかと思うのです。

今のように機械化も情報化もされていない時代に、効率など考えずに一生懸命取り組んで作られたものには人の心をひきつける存在感があります。それを古いからと言って捨てずに、今の生活の中に生かせるようにリメイクして残していきたいものだと思います。

蘇えった古い什器

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住宅ジャーナリスト 岡田憲治 児島敬子
プロフィール
デザイナー・建築家。1983年にトータル・ライフコーディネートスタジオ「ZAZA」を開設。1988年、ヒューマンスケールで考える住環境設計を加え、インテリア建築デザイン事務所「ZAZA―YOU、CO」を設立。家が「ゆったりと豊かな時を過ごせる心のすみか」となれるスペース作りを目指し活動を続けている。著書に「インテリア製図の描き方」など。

「入門 インテリアコーディネーター かんたんインテリア製図の作り方
――ヒューマンスケールに基づく快適空間の考え方
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