パチンコ屋で商売繁盛のタイル屋の主人が朝早くからやってきて、セメントをシャカシャカこねる。シャーと塗って、タイルを貼っていく。
「同じ色のタイルというのはないんだよなー。でも、このちょっとしたこの差がいいだろ」と言う。勝手に決め付けてと思うものの、そう言われると、何か浴室がこれまでと異なり輝いて見えてきた。どうせなら富士山を描いてもよかったかなと考えるO氏であった。
「このタイル、昔、おれが貼ったんだよな。いい仕事しているよな」
と自画自賛もする。
タイルを貼るのは出入り口のドアを取り外し、壁にしたところ。ドア下の根太が腐ってシロアリが発生したため、塞いでしまったのである。
「2つで入り口があるというのは変わっているよな」と主人。
「ええ……」とO氏。この小さな浴室でと言いたいんだろうな、とO氏は想像していた。
その話は面倒だからつついてくるなよな、と思っていると――。
「どうして2つ作ったんだっけ」と聞いてきた。ああー。
「えー。便利ですから」、そう答えるO氏である。
ウソである。この小さな浴室、右から入ろうが左から入ろうが、時間にしてほんの1秒2秒の差。おーいと呼べば、なんですかー、とこだまするような大旅館の浴室とは大違いなのである。
小さな浴室に2つのドア――そのワケとは、前回リフォームしたときのことにさかのぼる。
その頃はO氏のうるさ型の父親が健在であった。何かと干渉してくる人であった。
「玄関も別々、トイレも別々、浴室も別々という二世帯住宅はいいよなー」
「いいわねー」
「いいねー」
「金がないから建て替えられないねー」
「そうねー」
「せめて気分だけ二世帯住宅」
「いいねー、そのキャッチフレーズ。採用だね」
「浴室1つでもドアは別々」
「いいねー。傑作だね。温泉に行ったみたいだねー」
「温泉ではなくて銭湯です」
「銭湯でもいいねー。神田川だねー」
「かぐや姫ですか」
とかいったリフォーム検討の会議を開いて、気分だけ二世帯住宅でドアを2つにしたので
ある。